誕生日
1
六歳になるんだよ!
あと一週間なんだよ!
―孫娘が電話口ではずんでいる
そうか、誕生日ってゴムまりみたいにはずむんだ!
2
ぼくのはじめての記憶は五歳の夜
チチとハハの別れ話を寝床できいた夜
その後、誕生日は何度もきたけれど
弾んだ記憶はない みたい
3
息子の誕生日におよめさんがいった
―夫のお父さんになった日 おめでとうございます!
誕生日が二度きたようで
胸がちょっとふくらんだ
4
大地震のその日に亡くなったひとがいる
大地震のその日に生まれたひともいる
どちらも愛(いと)おしい
どちらもかみさまの手のひらにくるまれた命
誕生日はよろこびで満たしたい日だ
にっぽんが激しく揺れた日に生まれたひとよ
きみはうつむかないで胸張って生きるだろう
一杯愛され、いっぱい愛し 命に感謝して生きていくだろう 明日へ
5
ずっと前のこと
近くに住んでいるぼくを 母が訪ねてきた
手にはお寿司の折詰
―おめでとう 誕生日だね!
忘れていたぼくは ドッキリのお寿司を受け取ったのだった
すこし前のこと
仕事中のぼくの部屋へ 子どもたちが入ってきた
ハッピーバースデーをうたいながら
―おめでとう、おやじ 誕生日だね!
忘れていたぼくは ドッキリの笑顔を受け取ったのだった
6
―毎日が誕生日だよ、すてきだねえ
映画のセリフが届けてくれたことば
毎日 世界のどこかで産声があがり
毎日 世界のだれかが拍手で迎えられている
皮肉屋のこころは こんなことばも感じてしまう
―毎日がお葬式だよ、かなしいねえ
世界のどこかで息が止まり
世界のだれかの胸がしめつけられる 毎日
7
たった一人でも 世界のどこかで
不幸の衣に身をおおわれたひと
そのひとには誕生日は苦い日だ
―傷ついた誕生日だよ、さびしいねえ
独りでむかえたさみしい誕生日
でも 数えたらそれほど多くない
友だち、恋人、妻、子どもたち、孫たち だれかが隣りに居てくれた
―誕生日だね ウエルカムの日だよ
8
新しいことを始めようと気負わなくていい
昨日までのことをコツコツとつづけよう
直そうと決めたことは今日から努力しよう
祈りで始めよう 祈りで終えよう
ものごとを深刻にしてしまわない
喜んでいるひとをねたまない
愛することを学ぼう もっと
神に心をうちあける その時間をふやそう
9
たとえば 朝 妻と顔をあわせるのが照れくさい日
たとえば 一年の短さ長さを感じる日
たとえば 新しいワイシャツを着たくなる日
たとえば 自我の執着はもう棄てようと決意する日
たとえば 孫からのメールを何となく期待する日
たとえば 同期のともだちの笑顔が浮かんでくる日
たとえば 感謝の思いをふくらませたい日
そして 言葉に愛が宿ることを祈る日
10
妻といっしょに齢をとる
難しいことではないと思っていた 五十代までは
ふたりとも年ごとに萎えていく身と知ったいま
こう言おう―妻といっしょにアリガタク齢をとろう
◆言葉に愛を宿したい。
◆ご訪問ありがとうございます。