デクの祈りうた

キリスト教徒の祈りを、詩とエッセイにこめて

2024-01-01から1年間の記事一覧

〈しあわせのうた〉  十字架を負ったひと

1 しんぼうすることが患者の仕事だ あさ早くから二時間待って検査、一週間待って結果、診断はまだ先 わが体は痛み、しびれ、重くてだるい 不安の籠の中でじっと辛抱 せなかに十字架を背負った人 その苦しみの顔を見つめる 2 しずかな声で「お大事に、どう…

(ハッシュタグのうた) 干渉がやめられない親バト

お題「思い切ってやめてみた事」 どうしろこうしろはもう言わないけれど ああだこうだはまだ言いたいのだ ああだこうだも言えぬなら なんだかんだとつぶやきたいさ せめてのこと 豆鉄砲を しこたま胃袋に詰めこみ溜めこみ 親バトぽっぽう 子バトへむかってぽ…

(しあわせのうた)  明日も生きる

しっかりしなきゃと自分を叱る その声はまだ弱々しいけれど あれもしよう、これもできると心が躍った それは昨日までの事 わたしが見送った家族が夢に来た みんな笑みをうかべて、手招いて せっかくのお誘いだけれど 「吾、病と闘う者なり!」―その心意気で…

タフな生き物たちーメザシ

はらわたが裂けてもわれら魚(うお)なれば メザシを買った ほんとに 眼を串で刺している メザシを焼いた 裏返したら串が外れた 外れたら一匹頭がとれた もっと焼いた 全部で八匹 裏返したら体がよじれた よじれたら腸(はらわた)がでてきた 腸からにおいが…

(しあわせのうた)  今日を抱きしめて生きる

1 しみじみ思う 健康のありがたみと日々の暮らしの意味深さ あんな事でムキになったり、こんな事に時間とお金を費やしたり わたしが健やかで、するべき事があって、笑い声をあげていたのは昨日 せのびせず、卑下もせず 病んだ者の今日の暮らしを抱きしめて…

(タフな生き物たち)  虫

草のそばをとおったら ぴたっと なきやんだ みつからないよう ぎゅっと ちぢこまっているのか そこに居たなんて そこで季節のうたを うたっていたなんて おどろかせて ごめんね こわい生き物なんだね にんげんのぼくは きみの心臓を ドクンドクンとさせてし…

(ハッシュタグのうた)  終(つい)の本棚は段ボール箱

お題「我が家の本棚」 中学生の頃 読む愉しさを知った 高校生になって ふくらんでいく本棚がうれしかった 家を出るとき 三畳一間に 本棚は持ちこめなかった 本の少ない大学生となった 結婚したとき 家に大きな本棚が据えつけてあった 読んで聞かせる愉しさを…

(ハッシュタグのうた)  今日の指かぞえ

お題「わたしの癒やし」 指折ってかぞえてみる 今日こころが荒だったこと ーチャーハンにスープがついてこなかったこと ー詐欺師が老人からお金をだまし取ったこと 指折ってかぞえてみる 今日ニッコリできたこと ー買ったTシャツの着心地がよかったこと ー差…

(タフな生き物たち)ーなめくじ

なめくじなめくじだって横断歩道渡ります ―なめくじは思うのだ おれは「キモチワルイ」といやがられる おれが歩くと 跡がコンクリや壁にネバネバの線となる 「ソバヘ来ルナ、アッチヘ行ケ」とさけばれる いたずらっ子に小石でつぶされる わけしり顔の大人に…

(病と祈りと) 伴走②

〈苦しみながら走るひとの隣りにいる。それが走る人の助けになる。―そのように願い、期待する。たとえ隙間は容易に埋められるものではないとわかっていても。 その伴走者にも孤独があるでしょう。つなぎあうリボンは、孤独と孤独とを結ぶ祈りのリボンとなれ…

(タフな生き物たち)  ダンゴムシ哀歌

1 クモもミミズもゲジゲジも素手では無理 でも ダンゴムシなら平気 つまんで手のひらにのせると 黒い塊が 必死になってイノチをかくまう 2 ダンゴムシを手のひらでもてあそぶ 弱虫いじめのワルモノ みたいな気がしてくる おもしろいというだけで命をいじく…

(ハッシュタグのうた)  妻とふたりの朝食

お題「朝食に何を食べていますか?」 小鍋で卵を四つ茹でる 二人で二日食べる分 フライパンに人参の薄切り、ピーマンの細切り ときどき山芋も薄く切って 弱火で五分ほど蒸らす 油は使わない 食パンを焼く 妻は8枚切り、わたしは6枚切り こんがり焼くのはわ…

(ハッシュタグのうた) 家を売る②

今週のお題「#家を売る」 絵本を処分した でも 読み聞かせした思い出は売らなかった 壁のいたずら書きを消した でも 子供たちのはしゃぐ声は心に写し取った 家はひとのものになった でも 笑いや涙はみな宝箱におさめた ◆言葉に愛を宿したい。 ◆ご訪問ありが…

(ハッシュタグのうた) 家を売る

今週のお題「#家を売る」 家を売った みんなで新しい世界へ移るため 本も売った 衣類も売った 身軽になるため けれど 思い出は一部残した 子どもたちの部屋の壁 台所の食器棚などに あとは全部 一人ひとりが胸に詰め込んで持っていった ◆ご訪問ありがとうご…

(病と祈りと) 伴走①

〈苦しみながら走るひとの隣りにいる。それが走る人の助けになる。―そのように願い、期待する。たとえ隙間は容易に埋められるものではないとわかっていても。 その伴走者にも孤独があるでしょう。つなぎあうリボンは、孤独と孤独とを結ぶ祈りのリボンとなれ…

(タフな生き物たち)  ゴキブリ

そりゃあ必死でしょうよ、ゴキブリは 好きでゴキブリに生まれたんじゃないよ が ゴキブリの言い分。 悲鳴をあげる妻。 新聞を丸めて追いかける夫。 ころされてたまるか は ゴキブリの言い分。 ニンゲンの隙間を逃げる逃げる。 ヒャーとか ウェーとか ゴキブ…

(漢字考) 「憎」と「増」と

悪が増す まいにち どこかで増していく それにつれて増えひろがる憎しみ 善の心にも巣食う憎しみ あなたのこころを わたしのこころを 気づかぬうちに 憎悪がむしばんでいく いつか来た道を、子どもたちにふたたび歩ませないために ◆言葉に愛を宿したい。 ◆ご…

(漢字考) 「抗」と「杭」と

くずされてしまうかもしれない いまこそ杭(くい)をうちこまないと うばわれてしまうかもしれない いまこそ流れに抗(あらが)わないと あの時代のように あの国のように ―なにが? 赤ちゃんがあたりかまわず泣ける自由が 病んだひとが安心して養生できる平…

(病と祈りと) 妻と夫のつぶやき②

1 妻 しんぞうバクバクの検査前 血圧がまた上がってしまった ああ、白衣を見ると血圧が上がるわたしなの! わが家に重なった肉親の死 それから怖くなったのかもしれない せっかく来たのだから何とか受けないと―大事な胃カメラの検査 2 夫 しんぱいしないで…

(病と祈りと) 妻と夫のつぶやき

1 妻 しっかりできないから まだショボンとしててもいいのよネ あの人はシャキッと立って いざ闘病! の姿勢だけれど わたしは自分を甘やかしたい もうちょっとだけ せめこんでくる夜明けの不安 今は耐えるだけで精一杯なの 2 夫 しっかりしなよと言わない…

(病と祈りと) 患者との隙間ー寄り添う

〈安易に使われ過ぎている「寄り添う」という言葉。これは「埋めたい」という願望を強くもちながら、しかしどうしても相手との間に埋めきれない隙間ができてしまう、ということを、いたみをもって感じ取った者こそが使える言葉でしょう。「寄り添う」という…

(タフな生き物たち)  鯉

銭飲んで錦(にしき)吐き出す池の鯉 お高いそうですね、鯉って 外国からも大勢 買いつけに来るんですってね きれいな魚です、たしかに 鯉こくっていう滋味に富んだ食べ方もありますが 食べ物より見せ物そのほうがお金になるんですね、いまどきは そういえば …

誕生日

1 六歳になるんだよ! あと一週間なんだよ! ―孫娘が電話口ではずんでいる そうか、誕生日ってゴムまりみたいにはずむんだ! 2 ぼくのはじめての記憶は五歳の夜 チチとハハの別れ話を寝床できいた夜 その後、誕生日は何度もきたけれど 弾んだ記憶はない み…

(聖書から) 名を呼ぶ②

恐れるな。わたしがあなたを贖(あがな)ったからだ。わたしはあなたの名を呼んだ。あなたは、わたしのもの。……わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。 (旧約聖書「イザヤ書」四十三章) 1 学校で出席簿順に名前を呼ばれるときド…

(タフな生き物たち)  ハイエナ

小学校の卒業写真ににこやかな顔がならぶ どれも自信ありげな瞳ばかり おれの眼は上目づかい 叱られたばかりのような淋しい眼 おれの好きなハイエナ そのミジメさがたまらない ぞくぞくするほどのカッコわるさ おれそっくり 顔をみたひとが ああ清々(すがす…

(タフな生き物たち)  猫と鳩と

クウクウと猫の餌(え)喰らう鳩の朝 朝 近所の駐車場 ムラガル という言葉がぴったり おばあちゃんが野良猫たちへ餌を置く 四五匹の猫たち ありがとうの挨拶もなしにガツガツ やってきた鳩の群れ 十羽かそこら お邪魔しますの挨拶もなしにくちばしを突き出す …

(病と祈りと) がんの告知④

〈がんなど、重い病の告知について、「死」を見据えて書かれたものは多くないようです。わたしもうろたえました。妻は、毎年の特定健診で知らされました。思いがけなかっただけに、驚きは大きいものでした。妻のほうがもっと大きく衝撃的であったにちがいあ…

(病と祈りと) がんの告知③

〈がんなど、重い病の告知について、「死」を見据えて書かれたものは多くないようです。わたしもうろたえました。妻は、毎年の特定健診で知らされました。思いがけなかっただけに、驚きは大きいものでした。妻のほうがもっと大きく衝撃的であったにちがいあ…

(聖書から) 名を呼ぶ①

恐れるな。わたしがあなたを贖(あがな)ったからだ。わたしはあなたの名を呼んだ。あなたは、わたしのもの。 ……わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。 (旧約聖書「イザヤ書」四十三章) 1 子どものいのちは親のもの と大きな誤…

(病と祈りと) がんの告知②

〈がんなど、重い病の告知について、「死」を見据えて書かれたものは多くないようです。わたしもうろたえました。妻は、毎年の特定健診で知らされました。思いがけなかっただけに、驚きは大きいものでした。妻のほうがもっと大きく衝撃的であったにちがいあ…